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【建築家の文学館巡り 第3回】
--軽井沢高原文庫--
長野県北佐久郡軽井沢町塩沢202-3


新幹線が開通して軽井沢は近くなりました。東京からたった1時間です。しかし新しい軽井沢駅には少々がっかりします。新幹線という乗り物は駅の風情も奪ってしまうのでしょうか。以前の駅は記念館として現存はしているのですがどこか寂しげです。

さて気を取り直して目的地<軽井沢高原文庫>へ向かいます。駅前で自転車を借りて20分程度、喧騒な道からそれてからは静かで快適な道のりです。本当にこの道でいいのかしらん、と思うほどですがぱっと塩沢湖が見えてきてほっとします。軽井沢高原文庫とは一体どんな施設か、と期待で胸がはちきれそうです。目に飛び込んできたのは意外にモダンな建物、駅でがっかりしているので、ここでも少々落胆しました。文学館の建物を設計する、というのは思いのほか難しいのかもしれません。しかし軽井沢高原文庫の価値はそれが複合施設であることです。本館をそこそこに見て敷地の奥へ出ると、散策道に沿ってあっと驚く光景が飛び込んできます。そこには堀辰雄の軽井沢別荘が移築復元されているのです。
木々も深くさりげない佇まいにやっと<来てよかった>という思いが立ち込めてきます。

別荘は中にも入れます。いくつかの調度品も残っていて、当時の雰囲気が十分に漂っています。そしてテラスへ出ると、堀辰雄の文章のいくつかが思い浮かんできます。実は立原道造がここを訪ねてきて堀が不在であったためこのテラスでひとときを過ごしたくだりを書いた一文があります。ぼくの建築家志望の動機に立原道造があったので、このテラスでの10分ほどの時間は至福のひとときでした。建築というのは生活を包む器ですがこのように時間をも包むものであることを実感します。

塩沢湖畔には有島武郎の別荘も公開されています。この建物の2階で彼は愛人と自殺しました。その部屋に入ると何事もなかったようにしんとしています。ひと時の感慨に耽って階下へ降りるとそこは湖畔のカフェ。今を生きるカップルたちが楽しげにアフタヌーンティーを楽しんでいます。ひとつの建築に宿る過去と今。どんな演出よりも豊かな人間劇を見ているような気がします。

軽井沢高原文庫のもうひとつの良さは研究や発信活動が盛んなことです。オリジナルの機関誌が出ており、学術誌やメジャーの文芸誌にない、肩の凝らない、それでいて奥行きのある内容にとても共感を覚えます。

近くには深沢虹子野の花美術館などもあり文学、美術好きにはたまらないエリアとなっています。駅でがっかりした気持ちもすっかり忘れ<ああ、また命の洗濯をしたなあ>という思いとこんな気持ちにさせてくれる先人に感謝するばかりでした。
次回は<林芙美子記念館>を訪ねることとしましょう。

 

市民とメディア研究会・あくせす会員
木野秀明