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京都新聞「放送時評」
05年5月
     「ライブドア対フジテレビ」

 「泰山鳴動して鼠一匹」とはライブドア対フジテレビ攻防戦のことを指して言うのだろう。この"大勝負"は多義的で壮大(なはず)だった。インターネット対テレビの勝負、通信と放送の融合のありかた、メディアの公共性の将来、既存メディアの巨大権益に挑む新興企業、株式システムと企業買収などなど興味深いテーマに注目が集まった。ニッポン放送はもちろん、ソフトバンクに電通、関西電力、三菱電機、講談社などなど意外な役者もぞろぞろ登場して「放送開始八〇周年」にふさわしい春の嵐だった。

 だが四月一八日のあっけない"手打ち"共同会見で、フジテレビの日枝久会長は「最も優先させたのは、ニッポン放送の完全子会社化だ。グループの経営資源の選択と集中を行い、二一世紀の勝ち組メディアとして生き残るための基盤の強化が可能になった」と語り、ライブドアの堀江貴文社長は「通信と放送の融合という目標に向け資本・業務提携を当初の目的通りに発表できたことをうれしく思う」と興奮気味に述べた。

 和解宣言の中には、論争された「メディアの公共性」云々は影も形もない。メディアや民主主義の真の主人公である視聴者・市民は、彼らの眼中にはなかったようだ。"カード"として使われたニッポン放送では、視聴者・市民の意向とは関係なく、六月の株主総会でなぜか取締役十六人全員が交代させられる。

 ところでフジテレビ(当初、富士テレビ)は、「低俗卑猥と悪趣味とを、他局に率先して排撃する」 (『民間放送十年史』) 文化放送と、経営者団体がつくったニッポン放送を母体として五九年に開設された。しかし後発であったために参入に苦労し、当初の夢や理想は次第に影が薄れ、あからさまな娯楽主義に転換。「おもしろくなければテレビではない」と豪語して次第に市場を制覇してきた。

 フジの名誉のために付言すれば、「東洋のストラディバリ」製作者・陳昌鉉のドキュメンタリードラマ『海峡を渡るバイオリン』は、昨年度文化庁芸術祭最優秀賞を受賞している。また『NONFIX』(火曜深夜)はフジ以外のディレクターにも枠を開放している、自称"フジの良心"番組。現在「シリーズ憲法」を放送中で、今夜は『第九条・戦争放棄「忘却」』、来週は『第二一条・表現の自由「表現の自由と責任を取材の現場で考えた」』を予定している。地域系列局が忙しい日常業務を縫うように制作した『FNSドキュメンタリー大賞』は不定期・深夜に放送されるが、関西テレビの「罪の意味〜少年A仮退院と被害者家族の7年」、仙台放送「手向花の伝言〜東北大学病院と救急医療」など佳作も多い。
 こうした現場の"良心"が単に免罪符に使われているのか、それとも局と世の中をつなぐ基本的な回路なのか、視聴者・市民はミーハーしながらもしたたかにそこを見ている。市民の意向や参加を基本に考えるのかどうか、先週二五日に発足したNHK新体制でも問われるところだ。

市民とメディア研究会・あくせす会員
津田正夫