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京都新聞「放送時評」
05年4月
「FMわぃわぃ」


 三月は放送開始から八〇年になるという節目だった。NHKでは、災害や戦争など非常時のラジオの機能や役割についての特集が多かったが、NHKに対する視聴者・市民の関心や批判がピークにあるこの時期に、なぜジャーナリズムや公共性を問う直球で勝負しないのか疑問が残る。フジテレビとライブドアは、公共性を争う資格があるのだろうか?今回は小さな「公共放送」を紹介してみたい。

 阪神淡路大震災をきっかけに生まれた神戸のコミュニティFM(小出力のラジオ局)「FMわぃわぃ」(日比野純一 代表)は一〇年目を迎えたのを機会に、ラジオだけでなく映像配信のサイト「わぃわぃTV」を立ちあげた。こども、多文化共生、平和・災害救援、市民活動・まちづくりの四ジャンルに、五分から一〇分のおよそ四〇作品がアップされているのだが、これがめっぽう新鮮だ。「こども」「多文化共生」分野では、神戸に生きるいろんな子どもたちが制作したものが並んでいる。
 
『レモン』というのは、日系ブラジル人三世の松原ルマさん(中学三年生)がビデオで描いた自画像だ。国籍はブラジル。だけど「見た目は日本人。育ったのも日本。 外見も中身も日本人」の彼女は、まるでレモンのように「しぼっても日本人の汁しか出ない」。 何人もの友達に、海岸の白波に、黄色いレモンに、「私って一体、なに人?」と詩人のように問いかける。友達はさまざまな答えを返してくれるが、ますます分からなくなる。ブラジル風の家族から自分ひとりが浮いているように思えて、切ない。彼女が撮った自分自身のつぶやき、友人たちの戸惑いの表情、ありふれた日常の風景さえ、揺れ動く思春期の心象風景を映し出して余りある。一年以上かけて作ったとあって、劇場にかけてもおかしくない作品性を備えている。

 この他にも『ぼっかけ探検隊』『ぼくたちの夏休み』『クリスマス会』等、どの作品を見ても、日本で急速に消えつつあるキラキラした眼や、人懐こい笑顔が溢れている。映像制作や発信を支援する「ツール・ド・コミュニケーション」というNPOが、こうした子どもたちの活動を支えているという。
 
神戸では震災二週間後に、JR新長田駅近くの韓国学園の一室から、被災した在日同胞に向けて、韓国・朝鮮語による震災情報や音楽を流すミニFM局「ヨボセヨ」が開局した。他方、避難生活を余儀なくされたベトナム人たちによるFM「ユーメン」も生まれ、日比野さんたちの支援で、半年後に今のFMわぃわぃに成長した。現在は日本語、英語、韓国語、ベトナム語、中国語、ポルトガル語、タガログ語、スペイン語の八言語で、さまざまな番組を放送しており、高齢者、障害者も意識した番組づくりを進めている。制作スタッフは総勢百人。すべてボランティアだという。興味のある方は、ぜひパソコンで「わぃわぃTV」を呼び出してほしい。

 震災から一〇年、多チャンネル化は飛躍的に進んだが、大放送局の番組はどこまで多様化したのだろうか?

市民とメディア研究会・あくせす会員
津田正夫