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イスラエル政府は二月二〇日、ガザ地区とヨルダン川西岸の一部入植地からの撤退を決めた。大部分の西岸は手付かずだし、分離壁の建設は続行されている中での儚げな決定だ。イスラエルはパレスチナと共存することができるのだろうか。これに連動したような同二七日の『殺戮(さつりく)の地・9年目の対話〜ボスニア・ヘルツェゴビナ和解への実験』(NHK、「BSドキュメンタリー」)は再放送ながら、歴史的に敵対してきた民族の和解は、はたして成立するのかという意味で、時宜をえた編成だった。
舞台は首都サラエボの南にある町モスタルの、七百人が通う高校。モスタルは、一九九一年から九五年の凄惨をきわめた旧ユーゴ内戦でも、もっとも戦闘が激しかった町のひとつ。かつては仲良く暮らしたクロアチア人とイスラム系住民が互いに血で血を洗い、死者は三千人にもなったという。多くの建物は破壊されたままで、今もNATO軍が駐留する。戦後九年を経ても、ささくれ立ったままの両地区の境目に位置するモスタル高校は、去年九月から、民族和解のためのモデルとして両側の住民共同で運営されはじめた。番組は民族紛争に翻弄されながら生きる生徒たちの戸惑いを丹念に追いかける。
学校内でのなにげないふれあいや修学旅行を通して、憎悪にかたまった親の世代とは少し違った感覚的な理解が、生徒たちの間でわずかに進んでいる。民族をこえた小さな恋も芽生えている。しかしクロアチア側とイスラム側はそれぞれ別の教室、違った教科書で生徒を教える。戦争前は宗教の時間などなかったのに、今は宗教や歴史の授業で、相容れない内容を教えることも少なくない。互いに興味をもち話したいというもどかしさと、近寄ってはならないという民族的な呪縛に引き裂かれる若い魂の痛々しさを、カメラはみすえる。
そうした中で生徒会の選挙が行なわれる。父がクロアチア人、母がイスラム系のアディ君は、双方の生徒から陰口を言われ、"ミックス"と呼ばれている。アイデンティティに悩みながらも、両民族の絆の役割をはたしたいと願うアディ君は選挙に立候補し、両側の生徒たちに積極的に話かけて回る。少しづつだが、対話が広がるかにも見えた。しかし、多くの生徒は何かをおそれ、アディ君に投票したのは一人だけ。アディ君はバルカン半島に生きる人たちの複雑な感情を再認識させられる。希望はどこにあるのか。
制作者はアディ君を追っかけながら、選挙で何かが変わることを期待しただろう。何も動かなければ番組としては苦しい。しかし予想以上に緊張は解けない。同じ校舎の中で敵対的な教育を続けるかぎり、絶望的かも知れない。それでも冷厳な現実を、その場限りの美しいコメントで飾らないこの番組の姿勢は誠実で、いろいろと考えさせられた。
ギリギリまで核心へ迫ってくれるこうした番組枠は、NHKでは今やBSだけになったと言っても過言ではない。NHKは再生するのか。他国のことではない。
市民とメディア研究会・あくせす会員
津田正夫
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