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京都新聞「放送時評」
04年5月


 『目で聴くテレビ』というユニークなテレビがある。三五万人といわれる聴覚障害者(加齢による聴覚障害も入れると六百万人)のために聴覚障害者自身が制作・放送しているテレビだ。すべての番組を見るためにはCS受信機が必要だが、KBS京都では土曜日朝一〇時半から、編集しなおした『目で聴くテレビKYOTO』を放送している。このテレビの企画から放送までの様子を、今月五日のNHK教育「きらっといきる」(毎週土曜・午後八時から三〇分。大阪制作の福祉番組)が、密着取材して紹介した。

  「チャレンジかおり」のコーナーを担当する聴こえない手話キャスター・岡本かおりさんが、マウンテンバイクに挑戦し番組に仕上げてゆくまでの苦労や楽しさ、また聴こえないディレクター・大江さやかさんを狂言回しに、番組の企画・収録・編集での活躍や聴覚障害者向けの番組ならではのこまやかな演出ぶり、プロ野球中継にリアルタイムで字幕を付けてゆく作業などを熱く追っていた。

  健聴者は音のない世界を理解しにくいが、音声を消してニュース番組やドラマを見れば多少は体感できる。『目で聴くテレビ』成立のきっかけは、七人の聴覚障害者が亡くなった九五年の阪神淡路大震災だ。助かった聴覚障害者も情報から疎外され、命の危険にさらされた。教育テレビは、四日間すべて安否情報にあてられたので、大きな情報源である『手話ニュース』もなくなった。避難命令もテレビやラジ
オや広報車によって伝えられただけで、テレビには手話も字幕もついていなかった。
この痛切な教訓から「全日本ろうあ連盟」が中心になって聴覚障害者の放送を実現する運動にとりくみ、九八年に実験放送、〇二年に「CS障害者放送統一機構(NPO)」による本放送にこぎつけた。

  一方、新聞の番組欄で「字」マークの数を見ればわかるが、NHKや民放などの字幕放送は着実に増えている。〇七年には「字幕付与可能な番組」にはすべて字幕をつけることが目標になっている。ところがニュースや音楽・スポーツ番組など、字幕付与が難しいものは除外されていて、多くの番組が対象外だ。また字幕は増えている一方で、聴覚障害者たちの日常会話の手段である手話付き番組は減ってきている。しかし、手話は会話の補助手段というより、それ自体が演劇やパフォーマンスアーツにも通ずる独自の文化としての豊かな表現をもっている。字幕の効率性に依存して、手話が切り捨てられてはならないだろう。

  聴覚障害者に聞くと、早い画面転換や極度のアップ画面は意味が分からなかったり、刺激的な画像や“ぶれた”画像には不安を覚えることもあるという。音がない場合、より多くの情報が含まれるロングショットや出演者の関係を示す画面が必要とされる。障害者向け番組に限らず、高齢化時代を迎えて、番組制作者の注意を促したいところだ。大江さやかさんの夢は、もっともっと多くの障害者がテレビ界に進出することだという。健闘を祈りたい。

市民とメディア研究会・あくせす会員
津田正夫