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京都新聞「放送時評」
04年3月


 ついにイラクへの本格的な派兵が始まったが、市民が判断できる正確な報道は行なわれているのだろうか。
今年一月、石破防衛庁長官は防衛庁記者クラブ加盟の報道機関に、自衛隊の取材についての報道自粛を要請し、二月にはこれまで毎週行なってきた幕僚長の記者会見を中止すると申し入れるなど、政府から報道機関への“要望”や規制が日増しに強くなってきた。福田官房長官は、今後「報道協定」を要請することもあるという。

報道協定というのは、誘拐事件などの際、人質の安全のために各社が申し合わせて、一定期間報道しないことを指す。これが有事報道に及べば、戦時中の「大本営発表」に近くなる。
特に官庁の「記者クラブ」からの情報やNHKの報道は、政府の強い統制下におかれるのではないかという怖れが指摘されている。実際NHKのニュースや番組では、「9・11」以降、政府に批判的な情報が減った。自衛隊の出発場面で家族の映像を避けたり、派遣反対の市民運動はほとんど伝えない。公平な報道とは言えなくなってきている。

  去年制定された武力攻撃事態法では、すべての放送局は「指定公共機関」とされて、放送内容や事業計画について政府と協議しなければならないことになった。日本民間放送連盟(民放連)は、指定公共機関制度は「編成権の侵害」であり、「国民の知る権利に奉仕する報道機関が、政府に奉仕するものに変質しかねない」として、報道の自由に対する懸念が払われない限り制度を受け入れられないと繰り返し申し入れている。

一方NHKは、政府提案に原則的に同意しながら、実務的な効果を理由に、放送局に義務付ける放送内容は最小限のものに限ること、実際的な情報伝達のためには放送局の編集の自由が保たれること、国民の信頼が不可欠であることから総理大臣との協議義務は報告義務に留めることなどの要望を出している。

  このNHKの「意見」は、指定公共機関という制度そのものに反対するものではなく、首相との事前協議も否定していない。「武力攻撃災害」についての具体的な要件も政府に要請している。つまり多少抵抗はしているものの、極めて遠慮がちなのだ。国民を代表する唯一の公共放送としてこれでいいのだろうか。

地震などの大規模自然災害の時に、放送局が公共機関として防災のための情報を伝えることは当然といえる。しかし政府が情報を独占して決定する武力攻撃や戦争は、自然災害と同じではない。また首相との協議を、義務ではなく報告に留めようと要望する気持ちは分かるが、放送に際して政府と協議することは、視聴者・市民から報道の自由への疑いを生むのは当然だ。

戦時体制が強まる中で、政府の要請や義務で放送内容が決まり、政府が望まないニュースが隠される協定が結ばれるなど言語道断である。社会や国民の行方を左右する場合にこそ、国民の知る権利が最大限尊重され、報道や議論の自由が必要なのではないか。

市民とメディア研究会・あくせす会員
津田正夫