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京都新聞「放送時評」
03年6月


 あれだけ世界を震撼させ、情報の真偽や操作が騒がれた「イラク侵攻報道」なのだから、相応の検証番組があってしかるべきだろう。雑誌『創』『新聞研究』が、テレビ報道をふくめて、かなり踏み込んだ特集をしているし、NHK教育テレビなどでサイド・ストーリー特集はあるものの、正面からの検証番組は、私の気がついた範囲では、「NNNドキュメント03」『戦争報道/イラク戦争・テレビは何を伝えたか』(五月十二日午前一時半〜三時)くらいだ。

 この特集は、大野元裕(元イラク大使館員)、藤田博司(上智大教授)、武田徹(ジャーナリスト)をゲストに、戦争中は報道を控えた映像をも随所に使いながら、イラク報道のありかたを、多面的に総括しようとしたものだ。スタジオが緊迫感にあふれていたのは、生番組で、きわどい初公開映像が多くあったからではない。企業メディアの記者たちがみんな引き上げたあとバクダッドに残り、凄惨な戦場を見つめ続けたジャパンプレス所属の佐藤和孝、山本美香の二人のビデオ・ジャーナリストからの視点、従軍取材の立場で米軍とともに報道を続けたNTVの今泉浩美記者と三浦研一カメラマンの視点、さらに米英側・アラブ側・“中立”側のいくつもの通信社やテレビ局からの映像・原稿を整理・編集してニュースにする、外報部デスクやプロデューサーたちの視点、さらにスタジオに座った大勢のスタッフ、学生、視聴者の視点が暗黙のバトルとなっていたからである。死体や捕虜の映像の扱い方、ニュースソースが不確かな情報の使い方、軍制作のCMなど明らかなプロパガンダ情報の処理などをめぐって、できるだけ正確でバランスのとれたニュースを出そうとしているデスクたちの冷静な努力と、それでも圧倒的に優勢な米英軍の情報に流されがちになってゆくメディアのシステムに対して、それぞれの立場での微妙な揺らぎや苦渋の感覚が、全編に滲んでいた。

 それでも、フセイン像が倒された際の“作られた歓呼”場面の真実、白人美少女兵ジェシカ・リンチ救出の過剰なドラマ的演出、米英軍にエンベッド(埋め込み)された報道のありかたや米英軍の報道ルールの当否などをめぐって、率直なやりとりが交わされていた。良質のメディア・リテラシー番組と言っていいのではないか。

 武田徹氏は「ジャーナリズムはするべきことをしたのに、全体像がわからない。ジャーナリズムのあり方を全体に考え直すべきだ」と総括していたのは、視聴者・市民から言えばそのとおりだろう。ロイター通信の記者ら二人の戦死者を出したパレスチナ・ホテルのジャーナリストたちへの米軍の砲撃批判も、へたをするとクサイ話になりかねなかったが、同じ時に意図的に襲われたアブダビテレビとアルジャジーラの被害を佐藤氏がしっかりと伝えることで、かろうじてジャーナリズムへの視聴者の共感をつなぎとめたと言えるかもしれない。メディア規制法に反対するなら、公共放送はじめ各局も、せめてこのくらいの検証は続けて
ほしいものだ。

市民とメディア研究会・あくせす会員
津田正夫